Deathspell Omega：[Paracletus]

フランス産、真性にして不可侵のキング・オブ・ブラックメタル、待望の2010年5th。10曲42分半。DIGIパック。
End All Life Productions社長ならびにNorma Evangelium Diaboliの中心人物Hasjarl氏主宰、ヴォーカルにはNorthern Heritage社長、マルチなカリスマMikko Aspa氏を擁する、生ける伝説的バンド。

【キャッチコピー】
漆黒に塗り込められた悲愴なる叙情と、冒涜の限りを尽くす暴虐的サウンドとが熾烈かつ混沌と渦巻く、神秘と荘厳の織りなす暗黒美学を神々しいほど究極的に極めた黙示録ブラックメタル。
【一言】
不穏・不気味かつ複雑怪奇にうねる真黒不協和音リフ・トレモロ、キリキリと神経を逆撫でる高音リフ、まるで琴でも奏でているような陰性の叙情を孕んだ美麗クリーンギター、圧迫感のあるソリッドな低音を響かせる重量級のベースが、荘厳な厚みを持って獰猛無尽に猛り狂い、凄まじい緊張感を維持しながらプログレッシブに展開する怒涛の爆裂サウンド。Mikko社長のヴォーカルもキレキレで、憤怒を押し殺すような魔王のような威厳に満ちた極悪極まるドス系低音ガナリを軸に、噛み千切るように獰猛なデスヴォイス、厳かに神託を授けるような重い語り、悲痛さを滲ませて慟哭するガナリ絶叫や、張り裂けそうな絶望を張り上げるように生々しく泣き叫んだりと、迫真のパフォーマンスで聴く者の心をとらえて離さない。
【二言】
3rdアルバムの徹底して邪悪で、崇高にしてひたすら黒く、しかし胸を掻き毟るほど哀しく美しい叙情性と、4thアルバムで提示された苛烈極まる静寂と暴虐の対比によるカオス一歩手前の構築美が織りなすドラマ性とを兼ね備えた、まさにこれまでの作品の集大成とも言うべき作風。独特のリフ捌きや宗教的雰囲気作りによる、ひたすら暗黒なのに邪悪さを遥かに通り過ぎて高尚さや神々しさすら感じせる世界観はやはり圧倒的。
【三言】
じっとりとフランスらしい陰鬱な叙情を紡ぐメランコリックかつ鬱的グルーヴ感のあるスロウ・ミドルパートを絶妙に挟み、感傷的な感情と煮え滾る憎悪をジワジワネットリと練り上げた挙句、地獄の業火が如き怒涛のブルータリティを爆発させるブラストパートに雪崩込むカタルシスは圧巻。グラインド、ブルデスばりのアグレッションを発揮しながらも実に複雑怪奇な目まぐるしいリズム展開を整合させる剛腕ドラムの恐るべきバカテクには驚愕を禁じえない。
【蛇足】
Mayhemから現在まで綿々と連なるブラックメタル史の紛う事なき頂点に君臨する神盤中の神盤、3rd[Si Monumentum Requires, Circumspice]、そこで自らが完成させた純然たるブラックメタルのイデオロギーをすら乗り越え、ブラックメタルをブラックメタルとして新たな境地・更なる高みへと登らせしめんと試みた4th[Fas - Ite, Maledicti, in Ignem Aeternum]に続く三部作最終章。
本作は3rdと4thの良いとこどりのような作風であり、おそらく「古典的」ブラックメタルの視点で言えばやはり3rdが最高傑作となるだろうが、より広義の意味で一つの世界観を描写する音楽作品としてのクオリティは3rdに全く引けを取っていないだろう。
その音楽性はまるで、ブラックホールの真ん中で蠢くヤマタノオロチ(inspired by ジャケ and BASTARD!)が、周囲に存在するなにもかも、光すらも深淵な奈落の底に飲み込みながらシュヴァルツシルト半径を拡大し続け、空間を暗黒で埋め尽くしながら膨張しているかのような、そんな印象を受ける。
全体としての雰囲気はKenose以降の作風だが、4thで顕著だったアンビエントパートが無くなっていたり耳を惹くメロディが増加していたりと、総じて難解さが減退してストレートで聴きやすくなった。
曲間に無音部がなくアルバム一枚で一曲のような展開・構成であり、息つく暇もないほど楽曲に吸い込まれてしまうため、アルバム一枚ぶっ通しで何度も聴ける。
しかし、彼らが試行錯誤の末たどり着いた地点はおよそ典型的ブラックメタルとは異なる音楽性であるにもかかわらず、ブラックメタルとしての説得力は他の一切を寄せ付けないほどにズバ抜けているのはさすが。
MayhemやBurzum、Darkthroneの構築したブラックメタルのさらに上、より純然たる「ブラックメタルのイデア」へと近づき完成させようとする真に創造的で本質的な進化のアプローチを志向するこのDeathspell Omegaに、哲学・精神の空洞化したメジャーバンドや、形骸化し膠着した原理主義にすがりつく魑魅魍魎の地下バンドが及ぶべくもない。
まさに他の追随を許さない孤高の存在と言え、現在のシーンにおけるとんでもない存在感も至極当然と言えよう。
ブラックメタルの歴史上最も重要なバンドの一大傑作、ブラックメタラーを公言するなら聴いておかねばならない、必聴という言葉すら生ぬるいくらいオーマイゴッドな一枚。
Greatest!!
【お気に入り】
#10[Apokatastasis Pantôn]：最近の儚げブラックをすら自らの血肉と変えた素晴らし過ぎる名曲。
【傾向と対策】
過去作、NED系、Funeral Mist、というかブラックメタル全般
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