Pale Saints:「The Comforts of Madness」


UK産シューゲイザー、1990年1st国内盤。邦題は「狂気の安らぎ」
隆盛当時のシューゲイザーと言えばインディ・ロックの名門Creation Recordsというイメージが強い(My Bloody ValentineRideSlowdiveなどが在籍)らしいが、もうひとつの大きな勢力として4AD RecordsCocteau TwinsLushなど)が挙げられるようだ。4ADは耽美的・幻想的な世界観を表現するスタイルのバンドが多く、SlowdiveCreation所属ではあるが、どちらかというと4AD寄りの音であるということだ。
そしてこのPale Saints1stは、その4ADシューゲイザーを結びつけたバンドとしていまなおM.B.V.1stと並びシューゲイザーの名盤として讃えられている。
買ってから既に1〜2カ月経過しているが、今なお絶賛ヘビロテ中のお気に入り音源。


Ride感じられたやり場のない蒼い衝動と自己の殻に閉じこもる閉塞感をも内包した、淡く切ない耽美的癒しメロの乗っかるメロディアスかつロック色の強いシューゲイザー。儚さと憂いを増したRideといったところか。
アップテンポの曲も多く、生き生きとしたノリノリロック、ゆるゆるとたゆたう曲、優しい癒し系の曲など楽曲に幅がある。幻想的なKeyなどもちょこちょこと入り、Slowdiveのように繊細かつドリーミーな色合いの強い、ある種浮世離れした彼我的な雰囲気をも感じさせる。
しかしどの曲にも貫徹しているのは、多かれ少なかれ楽曲から滲み出るどこか寂しげな虚無感であり、聴いているとなんとも儚い気分にさせてくれる。


なんせ音作りが素晴らしい。深いエコーとディストーションのかけられたギターの音色が心地よく、またクリーントーンやアコギが多用されているため、ノイジーな中にも流麗な清澄感があるあたりはシューゲイズの醍醐味そのもの。
広い空間を埋め尽くすようなギター、さり気に力強く響くベース、バシバシと衝動的なドラムのそれぞれがしっかりと自己主張しつつ互いが互いを引き立て合う、計算しつくされた力関係が実現されている。


ヴォーカルは透き通るような声音の男性がゆったり囁くようなスタイルで、なるほど「青白い聖人」というバンド名がぴったりだ。これが、希望を失い抜け殻の様になった人の生気と共に漏れ出た嘆息であったり、儚げでありながら優しく包み込む生命力のある包容であったりと、曲によって感じられ方がまったく異なってくるのが実に面白い。シューゲイズらしい繊細なヴォーカルスタイルだ。


というわけで、まさにシューゲイザーの中のシューゲイザーとでも称するべき、淡い希望と狂気と倦怠感と美旋律と、そして圧倒的な虚無感によって支配されたひたすら爽やかで美麗な耽美主義シューゲイザー
ロック然りとしたダイナミックな骨格の上で、優しく柔らかな感触が前面に打ち出されているのに、そこから感じられる情緒感はどこか儚く、その秀逸な邦題が示す通り、狂気と表裏一体の安らぎに満たされている。
そして極めつけはアルバムの締めくくり。夢見心地でアルバムを聴き終えたとき、最後の最後で不意に入る、女性の悲鳴のような不穏・不気味な猫の鳴き声で不安のどん底に叩き落とされる。なんと悪趣味な幕引きか(笑)
緩やかだったりストレートだったりとメリハリが付いているため、自分も含めシューゲイズ初心者には非常に聴きやすい部類に入ると思う。シューゲイズってどんなことやってんの?って人はこれを聞くといいんじゃないかと思う。
オススメです。


・MySpace:ネット上での過剰なぬこ萌え論調が理解できません。僕は犬派です。