Caïna:[Temporary Antennae]


UK産、ポストブラックメタル、2008年3rd
前作[Mourner]ドローンノイズ、アコースティック、ダークアンビエントといった要素が非常に強い(裏を返せばメタル色がかなり希薄な)ダークなブラックメタルであったが、今作はそういった要素を維持しつつシューゲイザー・ポストロック的な要素を前面に押し出した次世代アンビエントブラックメタルとなっている。


アルバム前半は、VrolokブラックメタルパートやMutiilationを彷彿とさせる不穏・カルトな暗黒ブラックメタルを基盤に、シューゲイズ的ノイジーさのトレモロ圧倒的な質量を持ったディストーションギターによる圧殺系ドローン浮遊感漂う幻想的・神秘的クリーンギター/アンビエントKey情熱的だったり虚無的だったりするアコギなどをふんだんに用いた新世代系アンビエントブラックメタル
基本ゆったりしたミドルテンポ、軽快なポストロック的リズム主体だが、ブラスト爆走などもあり。
シューゲイズ・アンビエント的なアプローチを用いて幻想的な虚無感や喪失感を巧みに演出しており、ドロドロと蠢く粘度の高い悪意と絶望の上で、美しく耽美的な旋律が空々しく奏でられている。このメロディが実に儚く切なげで、心が抉られる。


一方アルバム後半は、相変わらずヘヴィなドローンや鋭利なトレモロなども用いられてはいるものの、ブラックメタル要素は廃された轟音ポストロック/シューゲイザーが中心となっている。とはいえ、#5[Larval Door]のような薄っぺらな軽妙さの裏返しである場合もあれば#6[...and Ivy Wound Round Him]#10[None Shall Die]のようにあからさまな場合もあるにせよ、楽曲に漂う不安を煽るような虚無感はアルバム前半と共通している
特筆すべき点として、転換点である#5は前半のドス黒さが嘘のように一転して明るくポップな曲調で、アルバム中でひときわ異色を放っている。まるで音の粒子が煌めくようなまぶしいエレクトロニカサウンドとクリーンギターが紡ぎ出す美しく儚く繊細なポップフレーズによって地に足のつかない昂揚感と飛翔感が得られる。
#7[Them Golds and Brass]#8[Petals and Bloodbowls]SidewaytownJesuを彷彿とさせるドリーミーサウンド
タイトルトラックである#9[Temporary Antennae]はジクジクとしたネガティブさと激情を発散するかのような圧倒的な音の洪水、その後に続く爽快な飛翔感と開放感をともなった疾走と、スリリングに展開する。


ヴォーカルはTjolgtjarに似たスタイル。絶望と怒りをない交ぜにしたような邪悪な吐き捨て系濁声ガナリを中心に、ニャーニャーしたKing Diamond染みたハイトーンヴォーカルや、感情的なノーマルヴォイスの叫び声、シューゲイザーっぽい淡く物憂げな溜め息ヴォーカルなど実に表現力豊かで素晴らしいヴォーカルワークが披露されている。とくに溜息ヴォーカルは心に強く訴えかけてくる切なさを内包しており、涙を誘う。
#2[Ten Went Up River]#3[Willows and Whippoorwills]ラストで聞かれる物寂しげな幼女の歌声が萌えポイント。


というわけで、幽鬼のような陰鬱さを滲ませた美メロアンビエント/ポストブラックの好盤
なかなか意欲的でオリジナリティに満ちた、センスフルな素晴らしい内容。
初期Jesuのようなヘヴィに轟く轟音に身を委ねる感覚が殊更に気持ち良く、爆音の快楽に恍惚としてしまう。そしてその上に危うげにちりばめられた、神々しくも切なく儚いメロディ・ヴォーカルが胸に突き刺さる。
無機質なマシンドラムをうまく利用しており、#4[Tobacco Beetle]#9ではトランスのようなノリノリビートが用いられるなど、インダストリアルな趣も感じられる。
個人的には前半のブラック色強い曲も結構ツボだったが、後半のポストロック群により激しく心を動かされた次第。#5#9あたりたまりません。
前作はアンビエント過ぎてとっつきにくい印象ではしたが、今作はJesuなどのポストメタルやシューゲイザー・ポストロックを好む人ならなかなか楽しめると思われます。
そうした非ブラックメタルに惹かれるブラックメタラーさんにお勧めしたい一枚。


・オフィシャルサイト(old)
・オフィシャルサイト(new)
・Myspace