Krallice:[Dimensional Bleedthrough]


アメリカ産、新進気鋭の激情アヴァンギャルド/ポストブラックメタル革命児Kralliceの2009年2nd
精神病患者の描いた絵画みたいな薄気味悪いジャケが個性的なデジパック、7曲77分強。
デビュー作にあたる前作は、ブラックメタルが先天的に持つ悪魔性を徹底的にそぎ落とし、ただひたすらにトレモロの叙情性一点にのみこだわりぬいた至高の傑作であったが、今作でもその作風は健在。
今作ではよりエクストリームメタルたる攻撃性に焦点が絞られているものの、相変わらずエモーショナル極まりないトレモロの奔流が築き上げる激情と神秘のスリリングなドラマが思う存分堪能できる


ドラスティックに緩急をつけながらブラストを中心に衝動的なビートを叩きつける激烈なるドラム息が詰まるような緊張感と胸を掻き毟る儚く切ない叙情味を持った美しくも狂おしい高音トレモロを焦燥に駆られたように掻き鳴らす2本のギター圧迫感を煽るように蠢き時に豊かな感情性を見せるベースが混然一体となって、己が身を焦がす熾烈な感情吹き荒れる荘厳絢爛な音空間を構築。一見猛り狂う感情に身を任せるていようで、その実計算高く練り上げられた混沌渦巻く大スペクタクルは、かつてEmperor屈指の名盤2ndでなしたような、圧倒的なまでの構築美と知性に裏付けられた芸術性を感じさせる
前作同様のスタイルであるが、前作以上に苛烈となった激情の暴風雨はより狂気性と憎悪の色を増し、ただ内から外へ放射状に発散していた感情のベクトルをブラックメタルらしい破滅的な攻撃性へ向けて収斂し始めたような印象を受け、それと呼応するようにメタリックな刻みリフやブラックメタルらしい暗黒性や陰鬱な叙情性が感じられるリフも大幅に増えている。
また、神々しい神秘性やシューゲイザー系に通ずるような儚さなどもより顕著となり、同郷の盟友Wolves In The Throne Roomを思わせるシーンも見受けられる。
ヴォーカルは、基本的には鬱系悲嘆慟哭スクリームから歪みを取っ払ったような悲愴感漂う生々しく苦しげな高音絶叫だが、#2[Autocthon]#4[The Mountain]では獰猛なグロウル/デスヴォイスが用いられるなど、やはりブラックメタルへの回帰とも言うべき変化がみられる。とはいえ、前作同様ヴォーカルは少なめであり、ほぼインストゥルメンタルといった趣。この作風にはこれくらいの比率がちょうどいいように思われる。
さらに音質も完璧。轟音ポストロックを思わせる質量感のあるディストーションや心を切り刻む高音トレモロの鋭利な切れ味など、迫力と繊細さが両立されている。


というわけで、前作も只者ではなかったが、更なる高みへと上り詰めた恐るべき創造性と完成度を誇る驚異の名盤
前作ほどトレモロ一辺倒というわけでもなく(それでもほぼ全編トレモロで覆われているが)展開がより豊富となり、一つ一つのフレーズのメロディアスさも相まって、ほぼインストな長尺曲ばかりだが飽きることなく楽しめる。
どの曲も素晴らしいが、極めつけは#7[Monolith of Possession]。一曲19分弱にも及ぶ大作だが、激ドラマチックな展開の中で、2本のギターとベースが競い合い絡み合うように掻き鳴らすメランコリック極まりないメロディが止まることなく怒涛のごとく押し寄せてくる様は圧巻涙腺超新星爆発級の破壊力。前作と合わせて見ても飛びぬけてパワフルな楽曲であり、これぞまさにKralliceと言うべき最高傑作的超名曲。ノイズに埋め尽くされるラストに心底震える。
若々しいエネルギーとオリジナリティとともにもはや重鎮レベルの貫録すら漂わせており、音に確かな説得力がある。ブラックメタルシーン最重要バンドの一角を担う孤高の逸材であることは間違いない。
前作を気に入った人ならもちろんマスト、その他にもKlabautamannの緊張感あるブラックメタルパートが好きな方、envyなどの激情ハードコアが好きな方にもオススメ。
保守的なブラックメタルに閉じこもっていたのでは到底味わえない昂揚と興奮が味わえるので、少なくとも前述した#7だけでも、ぜひ多くの方に聴いていただきたい。
Krallice、恐るべし。


・Myspace:Metal Archivesで調べたところ、どーやらギターのColin MarstonMick Barrプログレ畑の方たちのようで、このスリリングかつアクロバティックなギタープレイを成立させる高い技能とブラックメタルらしからぬメロディセンスも納得。