Petrychor:[Effigies and Epitaphs]


ロキノンなイケメンTad Pieckaによる、アメリカはカリフォルニア産、カスカディア一派の自然崇拝ポスト・フォーク/アンビエントブラックメタル、2011年1st。6曲53分。
2010年にデジタルアルバムが公開されたEP[Dryad]カップリングして、Khrystsanthoneyからデジパック2枚組として400セット限定でリリースされた。


大自然への畏怖と敬意、そして哀しき憧憬を、叙情と激情の暴風雪に載せて轟々と吹き荒れる涙腺破壊の新世代系轟音ブラックメタル!】


ボトトトズドドドと無慈悲に非人間的高速ブラストを打ち込むインダストリアルドラム、NHK自然紀行のBGMみたいな母なる大自然を讃える雄大な叙情リフ/神々しいアトモスフィアに満ちた神秘的ファ〜ファ〜シンセ、ムーディでありながら狂おしく激情に身を焦がすような高音泣きギター/ソロ、激情に駆られた感傷的トレモロなどが、猛然と荒れ狂う暴風雨が如き轟音となって強烈に叩きつけられる。
ヴォーカルは自然の厳しさを搾り出すような掠れたガナリ絶叫。Wolves in the Throne RoomNathanaelを思わせる凄絶なブチキレ絶叫だが、まるで聖域に足を踏み入れる人間に罰を託宣する山神のような、俗世離れした威厳が感じられる。
メタル曲が皆一曲当たり10分を越える大作志向の楽曲展開はダイナミックな起伏に富み、猛吹雪の吹き付ける断崖絶壁をロッククライミングしているような苛烈極まる極寒ブラストパートの合間合間に、美しく純朴なアコギがしっとりと哀愁漂う叙情を紡ぎ、時に情熱的に感情を昂ぶらせるアコースティックパートや、淡いクリーンギターの旋律が幻想的に残響するポストロック的パート、猛吹雪にさらされながら厳しい冬をジッと耐える針葉樹林帯のようなミドルテンポなど、静寂と爆音を効果的に織り込んでおり、かなりドラマチックな聴きごたえ。
必要に応じてピアノなども用いられる。


Wolves in the Throne Roomや、PanopticonSkagosなど、北アメリカのカスカディア地方を中心に盛り上がっている、アンチ文明ヘイル自然なアトモスフェリック・ブラックメタル
今作でも前EPで提示された、WITR的な神秘性と激しい叙情性、Coldworld的に凍てついた神々しいアンビエンスと空間形成、Agallochの木目調メロディ・ヘイルトゥマザーネイチャーな世界観を盛り込んだ音楽性が踏襲されている。
哀愁まみれの極寒メロディのテンションがバカ高く、シューゲイザー系にも通ずるような胸を掻き毟る涙腺刺激系メランコリーの破壊力は、それが新世代系の醍醐味であるとはいえ、実に強烈。
どうしようもない感情に突き動かされたように悶え狂うギターはKralliceをも彷彿とさせる。
淡々とバキバキゴリゴリのファストなリズムを産み出すドラムの無機質さとブリザードが吹き荒れるかの如き歪厚ギターの轟音が殊更コールド感を強調しており、この辺の感覚はColdworldに肉薄している。
打ち込みドラムがメンバー不足による間に合わせで無く、バンドサウンドの表現したいものを実現するための手段としてばっちりハマっているあたりがポイント高い。
またアコースティックパートの心に沁みる叙情性も見過ごせない。
この辺はWITRPanopticonなどで聞かれるようなカントリーフォークよりもシリアスな暗さが強く、Fenのようなオシャレなムードが漂っている。


自然崇拝系ではあるが、自然と共存する人間的/民族的な温かみよりは、生命を試練する自然の厳しさや悠久の無常感が強く、描き出す情景の視座は自然を見つめる人間でなく、自然そのものの側にあるような印象を受ける。
クリーンで奥行きのあるサウンド構築、その中で、音の分離よりは全ての楽器の融合を図ろうとするような、圧倒的な質量感で押し寄せる怒涛の轟音など、音質も完璧。


さらにボーナスとしてカップリングされている前EPも、本作同様の実に素晴らしい作品。
詳しくは以前書いたのでそちらを参照されたし。
Petrychor[Dryad]


というわけで、US新世代系ファンとしては押さえておかねばならない名作。
アルバム全体の世界観を楽しむ紛うことなき雰囲気ものであり、かつメロディ至上主義のブラックメタラーも感服の出来栄え。
同じく21世紀型ブラックとして流行しているシューゲイザー系と違って、バンド数は少ないもののそれぞれがクオリティの高い音楽をプレイしていることがカスカディア系の良いところですね。
Wolves in the Throne RoomSkagosPanopticonAgallochColdworldFenあたりのバンドが好みであればドツボること間違いなし。
もちろん前EPが好きなら必聴。
本作もEPもとても素晴らしい作品なのでぜひCD2枚組を購入していただきたいところだが、あいにくKrystsanthoneyがず〜っとストップしているようなので、もし購入したい方はBandcampからMP3を購入することをオススメ。
Wonderfull!!!


【お気に入り】
#6[Beneath Highway and Street]:3分あたりの涙腺決壊メロに殺られる。
【オフィシャルサイト】
http://petrychor.com/:Bandcampへのリンクあり。
MySpace
http://www.myspace.com/petrychor