Mare Cognitum:[The Sea Which Has Become Known]


USはカリフォルニア産、ポスト・メロディック/アトモスフェリック・ブラックメタル、2011年1st。5曲39分半。
オリジナルはデジタルリリースだが、2012年にMilam Recordsからテープが100本リリースされた。
今もBandcampでデジタルアルバムをNYP購入することが可能。
ちなみに自分はデジタル盤をDL後、テープをオーダーして現在到着待ち中。


荒々しい北欧メロディック・ブラックをベースに、多彩な手法でやたら滅法に叙情を紡ぐ弾きまくりギターと、ポストロック的な空間演出/ダイナミズムを用いて悲壮感一杯に神秘的な情景を描写するUS新世代系スタイル。
US新世代系アトモスフェリックと言うと、すわカスカディア系かと思いきや、ブラックメタル然りとした悪魔的・魔術的雰囲気を廃した世界観やポストロック等を取り入れた方法論には共通点も多いものの、自然崇拝的な雰囲気は無く、ジャケットやBandcamp等アートワークにも見られるように宇宙とか暗黒空間といった方向の神秘性を纏っている。
とにかく深淵さを湛えたギターのメロディが素晴らしい。
苛烈に叩き込まれるドラムの上で、ザーザーとザラついたノイズ質がボワボワ広がるような特徴的なギターとうっすら鳴る神秘的なシンセによる轟音空間を根幹に据え、メロブラらしい寒々しくメロウなトレモロ/リフ、Mystic Forestあるいは初期KralliceLiturgyを髣髴とさせる息せき切ったキリキリ高音トレモロ、シューゲ系のように郷愁が胸を締め付ける琴線刺激トレモロ/リフ、初期Agallochを思わせる星空を見上げるようなムーディなクリーン・ギターソロ、甘く柔らかに残響を棚引かせながら浮遊するポストロック的幻想トレモロ等々、様々なアプローチのギターが鬩ぎ合っており、それらによる悲哀に満ちたメロディの大洪水にボッコンボコンに打ちのめされてしまう!
また#1[Internal Deliquescence]ではそれこそMystic Forestっぽい狂おしくもロマンティックな速弾きピアノなんかも大々的に用いられており、メロメロ過ぎて最高だ!
と悦に浸ってビクンビクンしていると、#3[Vehement Coalescence]で唐突にザクザクダカダカとソリッドな刻みリフが炸裂し、果てはメロデスみたいなソロが出てきたりと、スウェディッシュ風のメタリックな疾走メロブラが流れてきて面を食らう。
確かにメロディセンス等は通じていはいるものの、何も説明が無ければ同バンドとは思えない豹変ぶり。
しかしながらこれがまたドチャクソにカッコよく、違和感など捨て置いてグイグイ惹き込み聴かせてしまうのだから大したものだ!
結局、#1/#2/#4がポスト・アトモスフェリック調の曲、#3/#5がオーセンティックなブラックメタルを色濃く残した曲となっている。


というわけで、これは素晴らしいUS新世代系の登場ですよ!
昨今のカスカディア系ほどポストロックやシューゲイザーに踏み込んでおらず、またフォーク要素も無く、あくまでポストロック的アプローチを取り入れつつも骨格は屈強にして苛烈なブラックメタルである、というところが高ポイント。
前述のようにまったく方向性の異なる楽曲が混在しており、初聴時はかなり違和感を覚えるが、それぞれがそれぞれに素敵なのでまぁヨシ。
ちなみにこの後の作品ではアトモスフェリックな路線に的を絞っていくので、まだやりたいことが定まっていなかった、というより消化しきれていなかったということなのかな。
ともかく、ブラックメタルとして全く嘘臭くなることなく古式ゆかしいブラックメタルでは見張らせない新たな境地を表現していくれているバンドだと思うので、新世代系ファンは勿論、その手のミーハーなサウンドに抵抗のある方にも是非聴いてみて頂きたい(そういう人は#3または#5からがオススメ)。


【お気に入り】
#2[A Vain Lament]:狂おしいトレモロがたまらん。
Facebook
https://www.facebook.com/MareCognitumMusic
【Bandcamp】
http://marecognitum.bandcamp.com/


ちなみに#3はこんな感じ。上の曲と全然違う!

ちなみにちなみにこのMare Cognitum、スーパーマイナーなカスカディアン・ブラックVessel IライブサポートしていたJacob Buczarskiによる独りバンドであり、カスカディア系とは言えないまでもカスカディアン人脈とは言えなくもない。