Lichium:Frozen Tamori


国産、自称サタニック・ゴルフ・メタル、2011年2nd。10曲44分半。
僕が大プッシュしている酔いどれフォークロック霞鳥幻樂団、色々台無しパワーメタルIron Thumb、そして最近おもしろPVが話題になった川越御当地ブラックメタルViolated Streamのメンバーによるバンド。
殺害塩化ビニールより太っ腹価格1050円(税込)でリリース。
国内盤のみなんてケチなこと言わずに、宇宙盤にはボーナストラックが2曲追加されている(笑)
1992年結成、過去には凶音捜血鬼身殺のドラマーである黄泉槌が参加していたりと地味に凄い白塗りブラックメタルバンド。
2003年作を最後に解散していたようだが、今年復活して過去作を再録した今作をリリースした模様。



【皮肉なほど悪ふざけとしか思えないバカ丸出しなキャラクターと、本気と書いてガチな鬼かっこいい楽曲との果てしないギャップがクソたまらない、音楽的にもエンターテインメント的にもハイクオリティな北欧型Key入り哀愁メロデスブラックメタル!】


カンカンバコバコと硬めの音でパンキッシュに叩き込まれるドラムがスロウ〜ノリノリ〜ブラストと緩急をつけつつテンション高く疾走し、ヘヴィメタルの範疇で程良く歪んだギターが、暗黒シンフォニーを響かせるダークなメロディック・リフ/トレモロ、北欧染みた哀愁ダダ漏れのクラシカルな単音リフ/ツインギターのハモリ/ソロ、ガッツポーズ系熱血メロ、スピード感のあるメタリックな刻みリフ、Burzumishな灰色グリムリフ等をキャッチーに掻き鳴らし、モコモコしたベースがメロディックにうねりながらメロディの根幹を縁の下の力持ちが如く支え、B級メロパワみたいなチープさのキラキラ・シンセが時にファンタジックに時に荘厳に時にフォーキーにとクサみの効いたメロディを絡め、ヒステリックなアヒル系高温喚きブチキレ・ヴォーカルがギャウギャウギャァギャァと噛みつくように喚き散らす。
時折、凶音身殺を思わせる怪しげな陰陽師コーラス、辺境ペイガンっぽい朗々合唱コーラスが絶妙に絡む。


もうどこから突っ込んでいいのか途方に暮れてしまう国産ブラックメタル
気合十分ではあるもののなんとも言えない微笑ましさがImmortalのかのPVに通ずるジャケット(ゴルフメタル名乗ってるんだから一人くらいゴルフクラブ構えろよ!w)、#2[マッチも売れないオヤジ]#4[父さんは超人だった]#7[兄は決して働かない]といった脱力感あふれる曲名(ちなみに各楽曲には申し訳程度にシリアスな英字タイトルが添えられてはいるw)、オフィシャルサイトやオビでのメタルの滑稽さを逆手に取ったバカっぽいイメージ作りなど、国産ブラックでよく言われる「神秘性」やらなにやらといった不自然な演出を鼻をほじりながらぶっ壊すような、一見するといっそ清々しいほどのコミックバンド。
ところがどっこい、その音楽性はというと、これがどこを切ってもめっちゃくちゃストレートかつ鬼キャッチーでガチに本格的な、哀愁を振りまく北欧メロデスサウンドの、ヘヴィメタリックな感性が強いブラックメタルであり、そのいくらなんでもなキャラとサウンドのかけ離れっぷりに笑いを堪えずにはいられない。
イメージ作りこそブラックメタルの神秘性に固執するブラックメタラーを激怒させるようなものであるものの、目隠ししながら、というわけでもないが、音だけ聴いたらまず間違いなく彼らからだってポジティブな反応が返ってくることだろう。


前述のように疾走感あふれる北欧メロデス型ブラックであり、この手には疎いので大した例えもできないが、まぁDissection系と言っておいて間違いではないだろう音。
とにかく慟哭の哀愁に満ちたメロディ捌きと心地よい疾走感、そしてうるさく喚き散らすブチキレ・ヴォーカルが絶品。
#3[田森倶楽部]#5[光速エレベーター]での殺気ばかりが先立ちつんのめりながらも止まることなく爆進するようなヤケクソ感も実にかっこ良い。
また前述の陰陽師コーラスが実にいい感じに怪しげな和製ブラックらしい雰囲気を盛り上げていたりなど、サウンド面でのクオリティは他のカルト性を重んじる国産UGブラック勢に全く引けを取っていない。
メタリックな切れ味と獰猛なブルータリティ、仄暗い瘴気に湿ったような空気感はブラックメタル以外の何物でもない。
#6[万引き]では後半で「お母さんごめんなさい、もう万引きはしません」というコーラスをリフレインするパートがあるが、ロックな泣きメロを伴った演奏陣がまっとうなだけにおそらく欧米人にとってはエスニックな母国語ペイガンに映るであろうと思われ、それがまた笑えてくる(笑)
アルバム中でも異彩を放っている#7は、Ashen Light1stを彷彿とさせるチープなシンセのクサクサフォーキーメロが炸裂するシンフォ爆走曲であり、そのあまりの殺傷力に古今東西クサブラックメタラーは須らく悶死すると見てまず間違いない。


そしてなんといっても#8[大名行列]
この楽曲、大名行列に並びたくないと駄々をこねる大名を家臣(?)が説得するというコントで幕を開ける、おそらくブラックメタル史上空前絶後の迷曲
「おーい大名ー、早く並んでよー」「やだよやだよぅ並びたくないよぅ」
みたいなやり取りが続いて、これがまた笑えるやり取りなんだけど、そんなのも束の間、ドラムのカウントから信じられないくらいのガッツポーズ系熱血メロディを伴って疾走する悶絶臭ブラックメタルへと、文字通り雪崩れ込む!!w
そのあまりの温度差に初聴時は思わず「なんでだよ!」と突っ込んでしまったw
実際、この楽曲はアルバムのハイライトを飾るにふさわしいくらい熱い楽曲であり、テンション上がる上がるw
そしてメタクソにかっこ良く駆け抜けて楽曲終了したと思ったら、再びコント再開。
実のところこっからがこの楽曲の山場なわけで(笑)1分半くらい、メンバーによるおそらく台本の無い即興コントが繰り広げられるが、それぞれの台詞の切れ味が抜群であり、何度聴いても吹いてしまうw


というわけで、目で見て楽しい耳で聴いてかっこいい国産ブラックの名作。
カルトな演出に頼らず純粋にブラックメタルとしての本質的な音のかっこよさ一本で戦うことが出来るのだからそう評価して然るべきだろう。
実際のところSighAbigailと同時期に活動を開始しているバンドであるだけに、気合の入り方はさもありなんといったところだろうか。
まさに痛烈痛快。
ブラックメタルの範疇を越えてヘヴィメタル的な意味でキャッチーかつメロディアスなので、ブルータル、オールドスクール、プリミティブ志向の人には分かりやす過ぎるかもしれないが、メロディ志向、メタラー気質の人ならきっと楽しめるだろう。
カルトなUGブラックも大好きですが、こういう自然体でブラックなバンドにもどんどん出てきてほしいですね。
衝撃度では間違いなく今年一番の一枚、ふざけたバンドは嫌だという人も騙されたと思って是非お手に取ってみてください。
コズミックオススメ!
なお、初聴時は電車など公共の場で聴かないことをオススメしますw


【お気に入り】
#8[大名行列]:「ほら、農民が見てますよ、農民がさ!」外様大名のくだりが鉄板過ぎるww
【オフィシャルサイト】
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Piano/8407/
Myspace
http://www.myspace.com/lichium


オビの叩き文句が最高だったので抜粋。

「全世界が宇宙に誇る、サタニックゴルフメタルの最高峰リチウム。トールキンのストーリーを題材とせず、今ここに蘇る!骨を粉砕しろ!耳を千切れ!崇めろ!神(タモリ)を!全8曲+宇宙盤のみボーナストラック2曲追加収録」

嘘みたいだろ?これ、ブラックメタルなんだぜ?
こんだけ長文書いて(現在連続3周目)まだまだ感想書き足りないわw


レコ発ライブ動画が上がったので貼っときます。
ほんとかっこいい上に笑えるブラックメタルww