Ash Borer:[MMIX - MMXI]


アメリカはカリフォルニア産、自然崇拝系アトモスフェリック・ブラックメタル、2009年から2011年の間にリリースされたデモスプリット、および1stフルレンスを収録したテープ2本組の2011年コンピレーションアルバム。6曲87分強。
1stプレスはLand of Deacayから[Discography 2009-2011]として100セット限定でリリース。
自分が入手したのはバンド自身のレーベルPsychic Violence Recordsからリリースされたジャケ違い2ndプレス。限定数は不明。150だったかな?小さなロゴ入り缶バッジがついてきた。
(2012.04.15追記)
先日Land of Deacay版もゲットした。
画像左がLand of Deacay版、右がPsychic Violence Records版のジャケ。


大自然への畏怖と崇敬を具象化したような、厳粛かつ深淵で、この世ならざる神秘の雰囲気をまといながら激情に身を焦がす轟音カスカディアン・ブラックメタルのお宝作!!】


アコギ/クリーンギターの暗く美しいメロディを絡めながらズゥーーーンズゥーーーンと重苦しく引き摺る圧迫感のあるモーンフル・スラッジーなドゥームパートを効果的に挟みつつ、輪郭がぼやけ重厚な音塊と化した轟音ギターが、神秘的かつ叙情的、そして張り詰めた緊張感溢れるエモーショナルな深淵荘厳トレモロ/リフ、耳を惹く美しく神秘的なクリーントーンのソロ等をまるで何かに取り憑かれたかのように一心不乱に掻き毟り、ゴーゴーと聴く者の不安を煽るような圧迫感のある低音ドローンと、ミドルテンポからブラストまで緩急をつけつつも煮え滾る感情を叩きつけるかのごとく苛烈に荒れ狂うブルータルなドラムまで混然一体となって鬼気迫るほどの切迫感を伴った怒涛のファストパートで聴く者を圧倒する、厳かな異妖と魔性の雰囲気をまとった轟音ブラックメタル
そこに奥の方から木霊するように、感情の噴出に身を焦がし足掻き悶える悲鳴染みたヴォーカルがグオオオオオギエエエエエと悲痛な絶叫を壮絶に張り上げる。


Wolves in the Throne Roomに代表されるような、ポストハードコアの影響を感じさせる自然崇拝系新世代アトモスフェリック・ブラックメタル
音の要素を分解するならば、アンビエント色の強いブラックメタル、ポストハードコア、ドゥーム、スラッジといったジャンルが因数となるであろうサウンドはどこまでも硬派かつ息つく暇もないほどにシリアスだ。
WITRPanopticonSkagosといった同列に語られるバンドたちほど、シューゲイザー染みた感傷的なフレーズや土着的フォークサウンドに傾倒してはいないものの、随所でそれらの意匠が感じられる絶妙なバランス感覚、滲み出るネイチャーな叙情感が実に素晴らしい。
ブラックメタルらしい暗黒さや邪悪さといったものは感じられないが、WITRの核心だけを抽出し徹底的に濃縮したような厳かかつ神秘的な、儀式めいた雰囲気はまさにブラックメタル以外の何物でもなく、全編に渡って名伏し難き凄味・威厳に満ちている。
曲間が途切れることなく怪しげなアンビエントサウンドで繋がっているあたりも、一種触れがたいような雰囲気の演出に一役買っている。


生々しいラフさを持ち、空間を轟音で埋め尽くしながらも繊細な感性の行き届いた奥行きを感じさせる音造りもいかにもカスカディアン・ブラック染みていて非常に好感触。
基本10分以上、6曲中2曲が20分前後という大作志向であるものの、じっくりとタメを効かせた後にカタルシスを爆発させるドラマティックな楽曲構成の巧みさや、その間緩まることのない真に迫る緊張感、そして何より決して甘くはないものの胸にズシンと響くメロディの素晴らしさのために、90分近いランニングタイムにもかかわらず飽きることなく集中力を持続して聴き続けることが出来る。


というわけで、押しも押されもせぬカスカディアン・ブラックメタルの大傑作。
WITRをベースに、PanopticonSkagosといったバンドがメロディの叙情性を追求していきつつあるのに対し、このAsh Borerは自然信仰の神秘性をブラックメタルサウンドとして昇華するというアプローチを突き詰めていると言えるだろうか。
悪魔崇拝を脱却した、しかし紛う事なき新世代のブラックメタルを正しく体現しているのではないかと感じた次第。
ぶっちゃけこの音源を聴くために長々と保留していたテープ環境の構築に踏み切ったのだが、そうした期待値をすら上回って素晴らしく、めちゃくちゃ聴きまくっている。
いわゆる新世代系が苦手な人でもこれは結構気に入るんではないかと思う。
一つ難点を挙げるとすれば、カスカディア一派に顕著な傾向ではあるが、ずばり音源に手を出しづらいことだろう。
そもそもこれまでのどの音源もテープ・LPのみのリリースであり、かつ少数であるため機を逃すとなかなか入手できなくなってしまう。
このコンピレーションも既にソールドアウトしており、現在すぐ手に入るのはFell VoicesとのスプリットLPかセルフタイトルの1stアルバムのLPのみなのではないだろうか。
なのでアナログ環境のある方で興味を持った諸兄は入手できる音源だけでも急ぎゲットされることを推奨するが、これだけ素晴らしい内容なので、ぜひCD化してもっと多くの人に聴いていただきたい。


【お気に入り】
Tape1,#1[In the Midst of Life, We Are in Death]:出だしからブッ飛ばしてくれるが、6:20あたりからの展開はあまりにも素晴らし過ぎて気が狂いそうになるほど歓喜
【オフィシャルサイト】
http://www.ash-borer.blogspot.com/
MySpace
http://www.myspace.com/ashborer