Peste Noire:[L'Ordure à l'état Pur]


ブラックメタル史上屈指の奇才La Sale Famine de Valfundeアニキによるフランス産アヴァンギャルドブラックメタル、2011年4th。5曲60分半。
アニキ自身が立ち上げたLa Mesnie Herlequinの初作品としてリリース。


【七人のFamineアニキが脳内キノコ牧場で虹色のベニテングタケをバーベキューしながら鶏モノマネ大会で踊り狂う珍妙奇天烈センチメンタル・ブラックメタル劇場。変態紳士必携の奇作、珍作、問題作!】


ノリノリロックなアップテンポ、スカっぽい裏打ち、ポストブラック的四つ打ち、トカトカ2ビート、バタバタしたブラストからインダストリアルな打ち込みテクノビートまで駆使して目まぐるしく展開し、フランス的淫靡なメランコリーと共にどうしようもない儚さ・切なさ・ダメ人間さが強烈に滲んだPeste Noire独特の哀愁腐臭ダダ漏れセンチメンタル・トレモロ/リフ、胸が詰まるような哀しくも美しいアルペジオ/ソロ、神経質かつ不穏で怪しげな陰惨リフ、キャッチーでノリノリパンクロックなザックリリフ等を絶妙に絡めた、Peste Noire節とでも呼ぶべきレトロな感性と腐った叙情が充満した個性的なリフ捌きが琴線を刺激しまくる。
歪みの少ないベースは良く動いて楽曲の屋台骨をメロディアスに築き、時にダンサブルなほどキャッチーにメロディを主張しており心地よい存在感がある。
そこにFamineアニキが、喉に痰が絡まったような不快指数200%じん麻疹系ガナリで熱に浮かされたように青筋を立て口角泡を飛ばしながら右から左からリキみまくりにガナリ立てる。


なんと言っても今作は、とにもかくにも様々な要素がゴッタ混ぜにされて、頭のネジがアヴァンギャルドのはるか上空を第二宇宙速度余裕しゃくしゃくでブッ飛んでいくような楽曲展開のイカレっぷりが際立っている。
物悲しげに奏でられる美しいアコギのアルペジオとヴァイオリン、皆さんお馴染みAudrey Sylvainの麗しく透き通っていて艶のあるFemaleヴォーカルが暗〜く童話を歌い上げるようにしっとりと進行するアコースティックな叙情パート、アコーディオントロンボーン?を絡めてフガフガスイングする民謡メタルパート、デカデントで仰々しいパート、デジタルビートが炸裂するインダストリアルブラック調のパート、郷愁に満ちた哀しさを振りまき泣きながらも勇ましく疾駆するゲキアツパートといった具合に、千変万化の表情をチグハグなほどにスイッチングし、そこに拳銃、マシンガン、刀剣、鶏、猿の鳴き声、サイレンなど様々なSEが猥雑にゴタ混ぜされている。
さらに前作で異彩を放っていた奇々怪々のヴォーカルワークは今作においても光りまくっており、前述のFamineアニキの熱いガナリに始まり、Audreyの湿ったFemaleヴォイス、B級ホラーコメディに出てくるお化けのような滑稽さの裏声、シューゲブラックっぽい翳ったノーマルヴォイス、セリフ、ポルノ/戦争染みた悲鳴、そして極めつけは鶏SEの後に続いて「コケッコッコッコ、コケーーーッ!」というまさかの鶏ヴォーカルまで登場し、聴く者の度肝を抜いてくれる。


しかしながら、物凄くゴチャゴチャした楽曲展開の急峻な切り替わりは目まぐるしくはありつつも、全くと言って良いほど崩壊感は無く、チグハグな違和感はむしろ絶妙なカタルシスとなってグイグイと次の展開へ聴く者を巻き込んでいく。
雑多な要素がグチャグチャと練り込まれながら、まるで秀逸なパッチワークを縫い上げるように一つの壮大な叙情ドラマを構築している凄まじい完成度の高さは、もはや異常だ。
5曲60分、#3[J’avais rêvé du Nord]などは20分にも及ぶ大作路線でありながら、アルバム通して全く息つく暇もなく、緊張感と興奮を持続させつつスルっと重たさを感じさせずに聴き通させてしまう。
これは、カオスをカオスとしたまま世界観を全くブレさせずに計算高く緻密な楽曲構築を築き上げる卓越した作曲センスがなせる神業と言えるだろう。
またこのためにはFamineアニキの類稀なメロディセンスが大きく寄与している点も無視するわけにはいかない。
一聴してPeste Noireだと感じられる、哀しいほど美しく郷愁哀愁に満ちたレトロなメロディがアルバム全体でその威力を存分に発揮している。
今作では初期のようなスイサイダルなディプレッシブ感がほぼそぎ落とされており、ただ只管にメランコリックなメロディが強調されているため、もう胸が締め付けられて締め付けられてどうしようもなく悶絶できる。


というわけで、Peste Noireらしさが更にドギツクなったやりたい放題の変態叙情ブラックメタルが縦横無尽に繰り広げられている今作、これはもう間違いなくPeste Noireの最高傑作だ。
美と醜が気持ち悪〜く混在し、明るいと言えば間抜けなほど陽気で、暗いと言えばネットリと陰湿で、滑稽で、薄気味悪く、胡散臭く、悪趣味な、それでいて胸を抉るほど痛烈に叙情的な、まさに腐敗した暗黒おとぎ話。
マジで全曲神懸かっている。
聴いた人は皆等しく「ああ、Famineはやっぱり頭おかしいな」と深い納得感が得られること請け合いだ(多分鶏の辺りでw)。
なんですか。「クワックワックワーーー!」というカルガモデスヴォイスが最高に笑かしてくれたTrollfestと結託して江戸家猫八ブラックメタルでも始めるつもりですか。
ブラックメタル広しといえども、誰にも真似できない個性という点においてこのバンドはちょっとズバ抜け過ぎている感がある。
というか、普段は「寒々しくメロウなリフを伴ってブラストで疾走する」とか言ってれば事が済んでしまうブラックメタラーにとって、ここまでレビュー書きづらいCDもそうないだろう(笑)
1stの身を切るような自殺ブラック路線を期待すると今作は陽気(妖気)に過ぎるが、これまでのPeste Noireの推移を楽しんできたファンなら、問答無用で狂気乱舞できるはず。
変態ブラックメタラーである諸兄にはもはや言う必要がないであろうが、それでも言わせてもらいます。
Buy or Die!!


【お気に入り】
#3[J’avais rêvé du Nord]:天才的キチガイ(゚Д゚)ポカーン。
【レーベル】
http://www.lamesnieherlequin.com/


コケコッコー

クワックワックワー

なお、Famineアニキはブックレットでも、思わず吹き出してしまうほどゴキゲンにハシャいでいるので、ファンは必見。