V/A:[The World Comes To An End In The End Of A Journey]
半年以上の遅れを乗り越えようやっとリリースされた、待望のPest Productions発シューゲイザー/ニューウェーブ・ブラックメタルコンピ。2009年、12曲63分強。
ジュエルケースとデジパックが500枚ずつで、合わせて1000枚限定。ちなみに僕が買ったのはDIGI盤だが、ついこないだ再発されたBekhiraのデモとCDの留め具が同じ仕様で、値段的にこれはどうよとちょっとびっくりした(笑)
そんなことはさておき、以前よりMyspaceで各バンドのサンプル聴いてかな〜り期待していたんですが、やはりその期待は全く裏切られることはなく、頭っからケツまでみっちりシューゲイザーブラックメタルの魅力が詰まった素晴らしい一枚となっている。
どのバンドも、
2ビート〜ブラスト疾走交えながら、ポストロック的ダイナミズムを備えたミドル〜アップテンポの軽快なドラムの上で、シャリシャリザラザラと歪んだ耳障りなギターが奏でる、胸を締め付け掻き毟る儚く切ないノスタルジーと哀愁に満ちたトレモロ、都会系陰鬱ロック的ディプレリフ、柔らかく丸みを帯びた幻想的なクリーンギターが奏でる浮遊感のあるトレモロ/アルペジオ、美しいアコギが奏でる優しげで温かだが物寂しさも感じさせるアルペジオなどが徹底的に琴線を刺激しまくり、そこに激情を切々と苦しげに吐露する強烈な金切り/ガナリ絶叫が乗っかる。
といった、Alcest、Amesoeurs以降のいかにもな涙腺決壊系シューゲイザーブラックを基本としたスタイル。
Ethereal Beauty(→Myspace)
US産。2曲10分強。
ブラックメタル要素の極めて希薄な、シューゲイザー/ポストロック的インストゥルメンタル。
あまり強烈なディストーションは用いず、温かみのあるクリーン/アコースティックなサウンドと軽快なドラミングによって、穏やかで美しい、清澄感のある情景を描き出している。
#1[The Sun Shines Tomorrow]は希望の光に満ちた、穏やかだが力強い生命力溢れる楽曲。一方#2[There's A Grey Cloud Above Us]では儚い憂鬱感が増しており、しんみりと心に沁みる。
Shyy(→Myspace)
ブラジル産。2曲12分弱。
ヴォーカルは基本高温ガナリ絶叫/泣き発狂だが、シューゲイザーらしい気だるく囁くような声色や暗く感情を吐露する普通声なども効果的に用いられている。
加えてリフやベースラインがいかにもポストロック的であり、高音のトレモロや甘いクリーントーンのサイケデリックな浮遊感、前述したヴォーカルワークなど、ブラックメタルらしさも残しながらもかなりシューゲイザー寄り。
涙をハラハラと流しながら星空を駆けるような昂揚感を伴って爽快に疾走する#3[The White Sheet Faces The Dark Light]はシューゲブラックの中でもひときわ爽やかであり、初聴時に絶大なインパクトを覚える屈指の良曲。後半の緊張感のある展開もたまらない。
#4[As I Fly]は一転してPale Saintsのような、倒錯的な幻想に魅入られたかのような儚げな虚無感漂うゆったりした曲。
Heretoir(→Myspace)
ドイツ産。2曲9分強。
EPと同様の陰鬱かつシューゲイジングな作風。本作の中では最もディプレ度が高い。
#5[Trümmerwelten]は哀しげに響くアコギと遠くから聞こえる発狂/泣き言などによるうなだれ系インスト。
#6[Herbstwind]は、ゆったりしたリズムの上で儚く消え入りそうに紡がれるディストーション/クリーンギターの霞みがかったメランコリーと、切々と金切り声を張り上げるヴォーカルによって、湿っぽい絶望と幽かな希望がジワリジワリと染みだす叙情的な曲。
Soliness(→Myspace)
ドイツ産。2曲12分弱。
ブラックメタル的ディストーションサウンドと、繊細なフレーズを奏でるクリーントーンの煌きが織りなす、しっとりと湿った大人な雰囲気漂うオシャレブラック。
#7[Longing for...]は感傷的なメロディを奏でるザラザラしたギターの上で柔らかに絡み合う2本のクリーンギターがリフレインする温かくも寂しげなフレーズが心に響くゆったりした曲。ほぼインストだが、うっすら、微かにとAlcestでのNeige御大のような淡いウィスパーも聞こえる。
#8[Skygaze]はAmesoerusの1stに近い雰囲気のポストパンク/ニューウェーブな曲。狂おしいトレモロに涙を禁じえない疾走パートはAlcestっぽくもあり、Shyyの#3と並んでインパクト強し。遠くでヒョーヒョーと金切る絶叫と厚く重ねられたウィスパー、Joy Division的まったりテノールなどのヴォーカルが用いられている。
Dernier Martyr(→Myspace)
ロシア産。3曲12分弱。
悲愴感一杯にガナリ泣き叫び絶叫するリストカッティングなヴォーカル、ザラザラとノイジーなギターと衝動的な2ビート疾走など、本作中最もブラックメタル色が強い。
しかしながら狂おしい程に儚く哀切極まるノスタルジックなメロディは、同時にAlcestを思わせる温かさや柔らかさも持ち合わせており、仄かな希望を感じさせる哀愁が絶妙に、かつ絶大な破壊力でツボを突いている。
ゆったり絶望を紡ぐ#10[937km]も良いが、強烈なメロディで儚げ疾駆をかます#9[Follow the River, Towards the Sea...]、#11[Tortured by Time]には特にツボ。
Dopamine(→Myspace)
中国産。1曲9分弱。
Pest Productionsの中の人であるDengさんによるバンド。さすがシューゲイザー/ポストロック系ブラックメタルを強力に推進しているレーベルの主催者なだけあり、#12[Melting]は今作を締めくくるにふさわしい、穏やかな癒し・美に彩られた静寂・儚く切ない孤独・激情の発露などが交錯する、シューゲブラックの決定版とでも言うべき素晴らしい楽曲。シューゲイザー的サウンドとブラックメタルサウンドが見事に融合されている。
というわけで、最近注目を集めているシューゲイザーブラックメタル・ムーブメントにおいて、今後重要盤の一つとして語られていくであろう傑作。
どのバンド、どの曲も非常に質が高く、極めて完成度が高い。
アルバム全編胸に沁み入る儚げなノスタルジーとセンチメンタリズム溢れる温かくも切ない癒しに満ち満ちており、掻き鳴らされる感情の奔流が涙腺を絶えず刺激する。
シューゲイジングと形容される感傷的なブラックメタルを好み、僕同様AlcestやAmesoeursを聖典と崇めるような人ならばグゥの音も出ないほどドツボにハマり胸が熱くなること必至。ずばりマストバイ。
注目度の高そうな一枚なんで、興味持たれた方はお早めに。
・Pest Productions:今後リリース予定の作品もかなり楽しみなものばかり。当分このレーベルからは目が離せなさそうだ。
・Pest Productions Myspace