Sidewaytown:[Years in the Wall]
ドイツ産、ネオ・シューゲイザーのソロユニット、Sidewaytownの2008年1st。
作詞作曲、ヴォーカル、ギター、アレンジ、デザインなどを自分ひとりで行っているマルチプレイヤーMarkus Baltes氏はゴシック畑出身の人らしい。
じゃんばすさんに紹介してもらったこのアルバム、この1年で新たな性感体として開発された僕のツボをゴツゴツ突いて有り余る魅力を持っており、ここのところかなり聴き込んでいるお気に入りの一枚。
キラキラと煌めき天上から降り注ぐ幻想的な光と音の粒子、琴線を刺激しノスタルジックな感情が込み上げてくるような、程よくギャリついたトレモロ/ほんのりAlcest臭漂うクリーントーンのトレモロを始めとした感傷的かつ美しい旋律の数々、Alcestを思わせる太陽の光と柔らかな芝生に包み込まれるような温かみのあるアコギ、要所要所で昂ぶる感情を放射するようなへヴィかつノイジーなディストーションギター、そしてそれらの上で淡くたゆたう優しくかつどこか物憂げなウィスパーヴォーカルが重なりあい極上のメランコリーを創出する耽美派シューゲイザー。
miaouを髣髴とさせるような、幾重にも重なったキラキラとした音のレイヤーと繊細なフレーズによる幻想的・神秘的なベールが非常に高い彼我感・デイドリーム感を演出しており、またゴシックメタルのような退廃的でデカダンな美意識もそこはかとなく感じられる。そして楽曲から漂うポストロック発シューゲとは異なるメタルっぽいニュアンスはJesuにも通ずるように感じる。
基本ゆったりとしたスロー〜ミドルテンポ、ときおり感情を爆発させるようなアップテンポを絡めるダイナミックな曲調。
音響系ポストロックの代名詞たるシューゲイザーらしい、緻密かつ奥行きの感じられる素晴らしい音質で構築される空間はまばゆいばかりの光で満たされている。
シューゲイザーとしてはかなりドラムが(音質リズム両面で)力強く、打ち鳴らされる金物とともに抑えきれない衝動と感情を叩きつけるようにリズムを吐き出している。
ヴォーカルはJustin K. Broadlick(Jesu)に似たタイプの淡く儚げなウィスパー系クリーンヴォイス。切なげな感情を滲ませたセクシーさがグー。
というわけで、幻想的な光のレイヤーが幾重にも折り重なった海の中を茫洋と漂うような、ドリーミーな恍惚感と没入感に浸れる一枚。
4AD系シューゲのような甘美な芳香と胸に沁み入るノスタルジーとに彩られたメロディの奔流に切なくも癒される素晴らしい内容。
#8[Don't visit a dying bastard]などゆったりした寂しさや憂鬱感といったものがヒシヒシと感じられる曲もかなり胸に沁みるが、#2[Paper walls]、#3[Asylum F22.0]、そしてとくに#5[Beautiful accident]のようなメタル由来のカタルシスを持ったテンションの高い曲はもう失禁してしまうくらいツボ。
似ている雰囲気のバンドを挙げるとしたら、やはり前述したように(最近の)Jesuだろうか。ただしあちらのような地響きが如きヘヴィさや単調さはなく、あくまで耽美系シューゲイザーをやっているJesuといったイメージ。
Jesuが好きな人やAlcestからポストロック・シューゲイザーに興味を持ったブラックメタラー諸兄に聞いてみてほしい。もちろん普段からシューゲを聴く人は楽しめるはず。
個人的にかなりハマってしまっているオススメの一枚。