夢中夢:[イリヤ - il y a -]


関西の6人組、自称「フューネラル・クラシカル」、2008年2nd
オルタナティブ、ポストロック、へヴィメタル、クラシック、ミニマルミュージック、映画音楽などの多種多様なジャンルを貪欲に取り込み独創的な世界観を構築する変態叙情プログレロック。
その独特のサウンド「ヒーリングミュージック from Hell」「ブラックメタル meets 久石譲」などと表現され、各所で絶大な支持を受けている。
去年買ったCDでもっともよく聴いている超お気に入りの一枚。


変則的かつ多様にリズムチェンジするプログレッシブなオルタナ/ポストロックの上で、専属メンバーによるピアノ、ヴァイオリンがクラシカルな美旋律を厳かに奏で、オペラチックな女性ヴォーカルが叙情味豊かに哲学的な詩を謳いあげる、ドラマチックかつシアトリカル、過剰なまでに壮大なサウンド


とにかく、メロディの根幹をなすピアノ、ヴァイオリン、ヴォーカルの三者それぞれが絡み合うようにして紡ぎあげる幻想的かつ荘厳なメロディが素晴らしいことこの上ない
天に飛翔するような歓喜のメロディ、憂いと悲しみに満ちた悲壮感漂うメロディ、優しく包み込むような柔らかなメロディなど、様々な顔色を見せる七色の旋律は鮮烈なまでに美しく、強烈に魅了される。
リズムパートも洗練されており、何かに急き立てられるように初期衝動を叩きつけるアグレッシブなドラムがセンスよく楽曲を盛り上げる。
またブラックメタルがよく引き合いに出されるように、ブラストビートによる突進パートも多々見受けられる。そうしたシーンではクラシカルなフレーズの裏でノイジーなギターが狂気に駆られたようにリフをかき鳴らしており、ギタリスト依田“ベルゼバブ”涼太が壮絶な喚き絶叫を張り上げている。
しっとりしたアコギを用いた物悲しげ・儚げな静寂パートはどこか鬱屈とした感情を孕んでおり、また#6[ドクサの海の悪樓 / doxa incarnate]ではパイプオルガンやクワイアも用いて魔的なインスピレーションを強く想起させる。
そうしたネガティブ・陰鬱な感情をドロドロと蠢かせる反面、だからこそドラマチックになだれ込む神々しいばかりの恍惚感に満ちた救済の光あふれる劇的な突進パートでは得も云われぬ快感に打ちのめされる


というわけで、芸術的とさえ評せそうな素晴らしい完成度の変態プログレ/ポストロック
どこまでも清らかでありながら、滲み出る鬱屈とした狂気と退廃的な美に満ちており、その徹底的に壮大な世界観はまるで壮麗な大スケールの歌劇を見ているかのよう。
ポストロック的な昂揚感・カタルシス溢れるドラマチックな楽曲は、多彩な要素をごった混ぜに盛り込まれていながら散漫とした印象は全く受けず、その完成された世界観と唯一無二オリジナリティが聴く者を圧倒する。
ピアノ、ストリングスによる宮崎映画のような雰囲気もさることながら、声楽的な美声を響かせるハチスノイトが神聖かつ浮世離れした空気感を醸し出している。
どの曲も素晴らしいが、とくに#4[僕たちの距離感 / toi et moi]は昂揚感あふれる名曲で、ツボ。
念のため言っておくと、ブラックメタルといってもCradle of Filthのようなゴシック調の壮麗さと神秘性を強く打ち出したものであるため、バキバキのメタルサウンドを期待すると肩透かしを食らう。
とくにギターの音質は薄っぺらでもうちょっと頑張ってほしかったというのが残念ではあるが、しかしそれを補って余りある音楽性の高さはスルーしていたらあまりにももったいない。
シンフォニックなブラックメタルやポストロックに理解のある方はもちろん、そうでなくとも多くの方にぜひとも聴いていただきたい一枚。
激おすすめ!!


・オフィシャルサイト
・Myspace1stも欲しいよぅ