Tuman(Tymah):「Funeral fog」


麗しのひんぬーDimタン率いるハンガリアン・ブラックメタル、2004年デモにボーナストラック一曲追加してのCD化再発。666枚限定手書きナンバリング入り。
よくTymahと記述されているが、バンドネームはキリル語表記であり、正確にはTumanらしい。
古き良きノルウェーブラックメタルを忠実に受け継いだ質の高いプリミティブ・ブラックとしてマニアの間では高い評価を受けており、実際このタイトルを見て「ムムッ」と思わない人はブラックメタラーにはいないはず。
女性が作詞作曲、おまけにギタボを担っていることでも有名。


Mayhemの名曲Funeral Fogのカバーで幕を開ける今作は、やはりMayhem1stの影響が色濃く感じられる硬派なノルウェイジャンスタイル・プリミティブ/ピュア・ブラックメタル
どんよりとした暗黒オーラの塊のような攻撃的リフ、メロウなトレモロ、機械的にひたすら淡々とビートを刻むドガドガ荒々しいドラム、邪悪にガナるヒステリックなヴォーカルといった、書いてしまえば何のことはない普通のブラックじゃんという感じだが、楽曲に漂う空気感が初期ノルウェーの(というかMayhemの)それに非常に近く、カルト臭はあまりしない(やはりAttilaの存在は大きい)がドロドロと蠢くドス黒いエナジーに満ちている
手数足数の多い怒涛のドラムと、スラッシュの名残りを感じさせる暴虐の暗黒リフに支えられたアグレッシブな楽曲の上で、Darkthrone的な悲哀/哀愁を感じさせるトレモロがここぞとばかりに飛び出す。張り詰めたような緊張感のあるテンションの高い楽曲群はなかなか質が高い。


時折泣き交じりに呪詛を絞りだす凶悪に潰れたガナリ声は、とても女性とは思えないえげつない声質。高音交じりであるため泣いているかのような悲壮感が漂っており、まさに鬼気迫るといった感じ。人間らしさを失っていないこの濁声加減がとんでもなく邪悪だ。
またちょっと籠り気味の混沌とした音質がいかにも初期ノルウェーバンドの息苦しさというか閉塞感を感じさせ、原始的なドラムの音がスキモノにはたまらなかったりする。


先ほども書いたがFuneral FogFreezing Moonのカバーが収録されている。「ふゅ〜ね〜ら〜・・・  ふぉっがなんかマヌケ(笑)ちょっとテンポアップしつつ原曲を忠実に再現した好カバーだが、やはりこれらの曲はAttilaのおどろおどろしい印象が強すぎてちょっと物足りなく感じるかも。さすがにこればっかりは仕方ないか。


またボートラはいわゆるTransilvanian Hungerスタイルの荒々しい曲。妙にベチベチしたバスドラが気持ちいい。
これがまたとんでもなくメロウなプリミティブナンバーであり、初めて聞いた時は鳥肌が立った。ザラザラしたノイジーなギターによる切れ味鋭いトレモロは破壊力絶大。ヴォーカルもBurzumのように悲痛に絶叫しており、悲壮感とどうしようもない怒りが滲み出た素晴らしい曲だ。


というわけで、かなりMayhem1stに近いスタイルだが、はっきりとメロウなトレモロが乗ったことにより緊張感と泣きが増し、Mayhemほど黒一色ではなく淡い色気がまぶされており実にかっこいいプリミティブ・ブラックをやっている
さまざまなスタイルのブラックメタルバンドが台頭してくる中、ブラックメタルの起源たる初期ノルウェーの音を受け継いでいこうという信念がヒシヒシと感じられ実に頼もしい。しかもそれが模倣的ではなく、インスピレーションの充実ぶりが楽曲(とくに#3#5#7あたり)に垣間見えるため、凡百のバンドとは一線を画す器のでかいバンドだと思う。
まさに本当の意味での原理主義ブラックメタルといえるだろう。
初期ノルウェー好きは勿論ブラックメタラーなら押さえておいて損はないと感じた一枚。


・No Colours Records
ちなみに、このCDはエンハンスト仕様になっており、ライヴ写真や#5:Transilvanian Dreams(音源は1st収録のものらしい)のPVが見れる。さすがというかなんというか、金のかかっていなそうなザ・森PVだ(笑)ときおりDeadが写っており、彼女たちの初期ノルウェーシーンへの傾倒っぷりがうかがえる。