Strid:「Strid」


ノルウェーの伝説的ブラックメタルバンド。
'93年のデモ「End of Life」と'94年のEP「Strid」を詰め合わせて2005年にArs Mysteriorumからリリースされたブート盤。全三曲25分。
Malfeitor名義で'91年に結成され、ごく少数のデモとEPを世に残した後消え入るように活動を停止した、マニアの間でディプレッシブ・ブラックメタルのオリジネイターとして崇拝される、まさに「知る人のみぞ知る」的幻のバンド、激レア音源ですXasthurNorttShiningといった主だったディプレス勢の台頭が'95年前後ですから、まさに元祖ディプレッシブ・ブラックメタル


「End of Life('93)」はタイトルトラック一曲のみ。
ノルウェーらしいトゥルーでコールドなオーロラチック/フォレストフルなメロディと、絶望、というにはあまりにも生々しい悲嘆の念が感じられるメランコリックメロディとを高次元で融合した名曲。
メロディの質としては、Ulver3rdを鬱っぽくした感じですか。ベースラインの泣きっぷりが半端ないです。
加えて悲壮感溢れる高音混じりのガナリボイスがいい具合に沈みこませてくれます。
11分間同じフレーズを反復する(といってもいくつかパターンはありますが)ような曲なんですが、わりとドラムが展開に幅を利かせているので、テンポアップして盛り上がりを見せる場面では涙を禁じ得ません。
まさに古き良きノルウェー・ブラック、かつ鬱ブラックの源流、素晴らしいというほかないです。


「Strid('94)」「Det Hviskes Blant Sorte Vinder」「Nattevandring」の二曲からなる音源。
前作と打って変わって、寂しげでドゥーミーな楽曲に浮遊感漂うアンビエントKeyが乗っかる、今現在のディプレス・ブラックに直結するスタイル
霧のかかったような雰囲気を演出する粒の細かいギター、やたらと耳を惹くベースの孤独メロディ、そして自らの葬送曲を奏でるかのようなキーボードの織りなすどうしようもないメランコリックさは一線を超えてしまい、聴いていて非常に情緒不安定になる。さらに、激しい悲しみと諦念を吐露する泣きの入ったデスボイスが絶望に輪をかける。
ひたすらに暗いモノクロの世界、しかしそこにもはや光はなく、ゆっくりと自我の終焉を迎える・・・・・・鬱に沈みこむ感覚はピカイチ。心の芯から冷え込みます。


音質はかなり良好。メロブラのようなディストーションギターにタイトなドラム、しっかり自己主張するベースと申し分ないです。


言うなれば、一切の希望の残らない、悲しくも美しいパンドラの箱
単なるレア音源という枠内では語りきれない、ブラックメタル史に残る超名盤。
今あるディプレッシブ・ブラックメタルバンドはすべからくこのバンドの影を追っているといっても過言ではないはず。
鬱ブラックの原点にして頂点、聖典とさえ言える音源。入手するのは困難かもしれませんが、もし見かけたら迷わず買っておかねばならない必聴盤です。
この音源に出会えてよかった。


・MySpace tribute page:三曲すべて聴けます。
※この完成されつくした音楽性の前では蛇足にすぎませんが、ベースボーカルのStormは'01年に自ら命を絶っており、まるでこの音源に込められたメッセージががポーズでも何でもないことを暗に示しているようだ。彼にしてみれば迷惑極まりないことかもしれませんが、ご冥福をお祈りします。