Al-Kamar:[Abstract Spread]


どうやらご近所さんらしいつきしまさんによる、なんと初音ミク入りシューゲイザーブラックメタル、2011年1st。7曲35分強。700円。
バンド名は「あるかまる」と読むそうです。
元々は東方アレンジの同人サークルとして活動を始めた一人バンドのようだ。


【やり過ぎなまでに琴線をガリガリ刺激する哀切郷愁ノスタルジックメロがみっくみくにしてくれる胸キュン・ミクゲイザー・ブラックメタル!】


ポストロック的ミドルテンポやブラストを絡めながら軽快なアップテンポで疾走する打ち込みドラムに乗せて、ギャリギャリと金属質に歪んだ切り裂くようなノイジーギター/ザラザラと粗い粒子が空間に拡散するようなノイジーギターが、爽やかで甘酸っぱくも強烈に儚さ切なさと哀愁の滲んだノスタルジック・トレモロ/ミスティックかつ悲しげな陰鬱トレモロ/曇天の雲間から光の筋が射すような高音ソロ/ジャキジャキした刻みリフ/灰色アルペジオを掻き鳴らし、そこに淡い優しさと同時に翳をも含んだクリーントーンアルペジオやジャンジャカジャラーンと弾かれるオシャレなギターがしっとりとした叙情の差し色を加える。
モコモコした音色のベースもしっかりと仕事をしており、良く動いてポストパンクっぽいムーディ・メロウでアンニュイなラインをなぞっている。
また冷たく神秘的・幻想的なアンビエンスを醸し出すシンセサイザーや上品なピアノが効果的に取り入れられている。
ヴォーカルはエフェクトが強くかけられたグリムな中音ガナリでグエグエギエエと怨念を絞り出すかのように邪悪にガナっている。SilencerAshなんちゃらのようなひっくり返った発狂系高音絶叫も出現する。
さらに要所要所で初音ミク嬢が可憐でありながら凛と澄んだ美声で哀しげに歌唱する。


Neigeフォロワー直球なシューゲイザーブラックメタルサウンド
湿った音造りや曇り空の都会的な雰囲気はAmesoeursを彷彿とさせ、またクリーントーンアルペジオ等にはAlcestの情緒感を受け継いでいる。
DopamineDernier Martyrに似通った音楽性だが、とにもかくにも涙腺刺激トレモロから繊細なアルペジオまで、メロディの煽情力がハンパない。
「儚く切ないメロディ」というのがシューゲブラックの合言葉であるが、このAl-Kamarはその一番大事なツボをとことんまで突き詰めてわかりやすくデフォルメしたような、とてつもない殺傷力のメロディを炸裂させまくっている。
おそらくシューゲ・ブラックファンが「ぐっはぁΣ(゚□ ゚)!これこれ、これが聴きたかったんだ!」と諸手を挙げて感涙に咽び泣くようなトレモロアルペジオの大盤振る舞いがこれでもかと琴線を刺激しまくる。
#2[Black End]などは発想の勝利と言ってしまいたいほどに冴えたトレモロで、そのあまりの爽やかさと切なさに胸がキュンキュン苦しくなる。
また#4[Vanity Moon]など叙情的なトレモロでグイグイ攻めてくる様はKralliceの激情性にも通ずるように感じられる。


さらに日本人らしい丁寧かつ繊細なアレンジセンスも光っている。
エフェクトを様々に駆使して多様な音色を響かせるギターや、シンセ、ピアノも交えて煌びやかに織り重ねれた音の多層構造を巧みに利用して、一曲の中で静と動、醜と美をハッキリクッキリと対比づけながらも流れるように山へ谷へと展開していく楽曲構成は実にお見事。
一曲一曲がとても充実している。
このへんは欧州のメタルというよりはやはり同人音楽のセンスかなぁと感じるが、それらが結実した#6[Hypocrisy Luna]はドラマチックな聴きごたえ。


そして本バンド最大の特徴と言えるであろう初音ミクだが、これが驚くほどすんなりと楽曲世界に融け込んでおり、ブラックメタル初音ミクぅ?」と一瞬鼻白んでしまうような違和感が全くない。
それどころか、細く甲高い声色には人間味の薄い無機質さが感じられるが、これが逆に寂寥感や虚無的な哀しさを絶妙に演出しており、楽曲の煽情力を殊更に強調している。
その可愛らしく機械的な声音には、AlcestAmesoeursでお馴染みのAudrey Sylvainのアンニュイで艶っぽい女声とはまた違った妙味があり、これがAl-Kamarサウンドに無くてはならない個性となっている。


というわけで、シューゲブラックファン殺しの一枚となっている。
初音ミク入りシューゲイザーブラックメタルと書くと、色んな意味でアレ過ぎて「なんだよニコニコ鬱ブラックメタラーのなんちゃってブラックモドキかよブラックメタルは遊びじゃねぇんだよバカにすんな」と感じる人が出現しそう(何を隠そう、大変、誠に失礼だが、最初は僕もそれに近い思いを抱きましたw)だが、聴いてみてびっくり。
初音ミクブラックメタルを歌わせてみた」的な、ブラックメタルをゲテモノ扱いして初音ミクとのミスマッチを楽しむようなお遊び要素は欠片も感じられず、あくまでシューゲブラックの表現ツールの一つとしての、必然的な初音ミク起用に説得力があり、(もしかしたら本当は女声ヴォーカル雇えなかったための代役だったのかもしれないが)このアプローチは見事成功したと言えるだろう。
また初音ミクが無かったとしても、単純にシューゲブラックメタラーのツボをつきまくる楽曲群は、多少表面的というか分かりやす過ぎる嫌いがあるかもしれないが、素直に聴けばとてもクオリティが高い。
AlcestAmesoeursはもちろんだが、むしろDopamineDernier MartyrをはじめとしたPest Prductions白コンピ参加バンド、OnryoAvesAirsといった第2、第3世代のポストパンク/シューゲイザーブラックメタルが好きな方はきっと楽しめると思うので、ぜひ聴いてみていただきたい。
これで700円とはいやはや、お買い得の良心価格と言うほかない。
僕自身同人音楽に明るくはないのですが、友人に大好きな奴がいて、そいつの部屋行くといっつもいろんな東方アレンジだなんだと聴かされているので、結構良い曲多いよね、とは思ってましたが、このアルバムを聴いて改めて同人というコミュニティがバカにできないな、と感じたのはまぁ別の話としても、そういう色眼鏡で見てスルーしていたらあまりにも勿体無いと思います。
おすすめ!


【お気に入り】
#2[Black End]:出だしのトレモロみっくみくにされる。
【オフィシャルサイト】
http://alkamar.jougennotuki.com/