V/A:[Oriental Abyss]
2010年、日韓合同5-wayスプリット。13曲70分弱。
注目のゼロ次元さん記念すべき第一弾リリース。1000枚限定。
「東洋ブラックメタルだって北欧に負けちゃいないぜー」という気合と、今後ますますの日韓関係友好化への希望とが込められた一枚。
Apparation(Myspace):#1〜#3
韓国産プリミティブ。3曲26分半。
Darkthroneのオールドスクールで邪悪な感性を大事にしたノルウェイジャンプリミティブスタイル。
ドッタンドッタンと厳かなミッドテンポメインに〜ツタツタ2ビート疾走〜ブラスト突進まで緩急をつけながら進むドラム、スラッシーな切れ味を持った邪悪で禍々しいリフ、ノリノリイケイケリフ、ブラックメタルらしい神秘性とヒステリックな叙情を感じさせるトレモロ、陰鬱メロウなトレモロなどツボを押さえたギター、エフェクトをかけた血管がブチ切れそうな高音ギャァギャァ喚き絶叫の凶悪なヴォーカルと、非常にストレートにかっこいいプリミティブブラックメタルとなっている。
適度にジリジリと粗く汚いプリミティブ然りとした音作りもナイス。カンカン硬いスネアとズドドドと頑張るバスドラが良い感じ。
展開の繋ぎとして頻繁に挿入される暗くしっとりした叙情味あるアコギや赤子の泣き声、木魚とお経などのSEを用いた不気味で妖しげな雰囲気作りも申し分ない。
#2の赤子の泣き声→ヴォーカル狂犬病発動から続く叙情突進パート以降の展開が猛烈にカッコイイ。
結構リフの反復が多いが、別にそれほどまでにしつこく単調ではなく曲展開にもメリハリがあるため、これぐらいのストイックさを楽しめないようではプリミティブは楽しめないと個人的には思う。
古臭いが適度にメロディアスな、プリミティブらしいプリミティブが好きならきっと楽しめるだろう。
厄鬼(Aek Gwi)(Myspace):#4〜#6
韓国産カルトプリミティブ。3曲12分強。
純然たる怨念につき動かされたようなアンダーグラウンド臭プンプンのストイックかつサタニックな暗黒プリミティブ。
ドカカカカカカと無機質にブラスト〜ツタツタ2ビートする打ち込みドラムの上で、暗黒の瘴気を発散させるベースが崩壊感のある不気味なラインをなぞり、チリチリギャリギャリに歪められたチープかつノイジーで薄っぺらなギターが邪悪に乾ききった埃っぽいプリミティブリフを延々掻き鳴らし、Absolute of MalignityやSubconscious Evilを思わせる、エフェクトの掛けられたギャァギャァギエエエエグウェエエエと獣が如き凄まじいガナリ咆哮、Meyhna'ch閣下を思わせるネチっこくねじくれた生気の感じられない呻き声といった、人間の尊厳なんて忘却の彼方に消し飛んだ怨念の塊のような壮絶なヴォーカルがのっかる。後ろの方でなんかインダストリアルなピコピコKey鳴ってる?
激耳障りなノイズ音質といい邪悪にストイックな内容といい、Torgeistの質感でIldjarnの楽曲をやっているような感じ。まったくもってフレンドリーさゼロのミサンスロピックっぷり。
なにより凄まじい狂気を爆発させている鬼気迫りまくりなヴォーカルがハンパない。ただでさえ地声がイカレてらっしゃるのに、エフェクトをかけられてなんだかとんでもないことになっている。これが実に効果的にぶっ壊れた楽曲を殊更にヤバ気なものにと昇華させている。
とにかくプリミティブブラックのミサンスロピズムに焦点を絞ったような剛の者向けプリミティブなので、ダメな人は全く持って受け入れられないだろうが、前述したようにIldjarnとかTorgeistとか好んで聴かれる方なら気持良く陶酔できること請け合い。
もちろん僕個人はのど越し爽やかに美味しくいただけました(笑)
Fenrisulf(Myspace):#7〜#9
待ってましたな、個人的に今最も注目している国産カルトプリミティブ。3曲14分強。
Mutiilation、Celestiaを筆頭にフレンチカルトシーンの影響を強く伺わせるRawプリミティブ。
ドッタンドドタンというポンコツミッドテンポと気が狂ったようにドタバタとブラストするファストパートを巧みに織り交ぜたドラム、レトロでボロボロのギターが奏でる胸を掻き毟る悲愴感たっぷりのメロウで病んだトレモロ、悲しくメロディアスなベース、邪悪なことこの上ない醜くねじくれた呻きガナリ、そしてお馴染みの絹を切り裂く金切り悲鳴〜喉から絞り出すような凄惨な絶叫が絡む。
相変わらずのFenrisulf節が堪能できるが、#7・#8と#9で作風が若干異なっている。
前2曲は前作デモアルバムよりも耽美で頽廃的なオカルト感がかなり濃厚になっており、この陰湿ロマンティズム末期症状と形容できそうな暗黒シンフォニーはManierismeを彷彿とさせる。
加えてギターがさらにボロボロになっている反面、ドラムはかなりきれいな音になった。
一方#9は前作デモアルバムと同様の作風であり、音質も前作同様。
これぞFenrisulf!!と言いたくなるメロウ&ポンコツプリミティブチューンとなっている。このLLN譲りのポンコツでRawな疾走感がたまらんのよホント。
全曲通じて言えることは、とにかく鬱屈としていながらどこまでも悲しくメロウなトレモロがツボを突きまくるということ。Hakuja(およびFuneral Elegy)、Manierisme、もしくはArkha Svaといった、フレンチブラックベースに胸が苦しくなるような悲愴感と耽美な叙情性をより強調した国産勢と同系統のメロディセンスだが、彼らのどれとも違う、聴いたら一発でFenrisulfだと分かる個性を感じる。
前述のポンコツRawなリズムと炸裂感のあるブラストそれぞれの訴求力も高く、楽曲構成としても押し引きが実にお見事であり、緩急をスイッチして畳み掛ける様が(そのスイッチ時のモタリも含めて)猛烈にかっこいい。リズム感抜群。
そして今回最もパワーアップしたのはヴォーカル。前作であまりのキチガイっぷりを披露してくれたsyuriさんですが、今作ではギエエグウェエと生々しく潰れた、LLN系の禍々しい呻きガナリを主軸としており、これがまたかっこいのなんの。メタクソに邪悪。そしてそこにお馴染みア〜〜〜〜(°ρ°)の悲鳴や金切り絶叫を絡めてくるんだからたまらない!!
というわけで、たった3曲なのにこんだけ長々語ってしまうくらいに素晴らしい珠玉の3曲。
メロディ、リズム、ヴォーカル、音質、本当に何から何まで素晴らしく、めちゃくちゃ楽しめた次第。
やはり僕は3曲目が好き。
前作を気に入った人やManierismeが好きな人は問答無用で楽しめるはず。
Juno Bloodlust(Myspace):#10〜#11
国産シンフォニックブラック。2曲11分半。
ズバリ中期Cradle of FilthやAnorexia Nervosaを思わせる、シアトリカルかつハイテンションなシンフォニックブラックメタル。メロデス寄りのファスト・メロディックブラックメタルに、B級ホラーテイスト・ゴシック風味のお耽美シンセが絡むといった感じか。
ブラスト中心に猛然と突っ走るアグレッシブなドラム、分かりやすくブラックメタルなメロディも奏でながら正統派ヘヴィメタル的(翻ってメロデス的)なアプローチでザクザクダカダカする哀愁ギター、ストリングス系中心に様々な音色を巧みに用いながら異様なほどのハイテンションでスリリングに攻め立てる派手派手しく鮮烈・強烈なオーケストレーション、ギャァギャァとハイテンションな喚きデスヴォイスなどが所狭しと暴れハッチャク。
ごめんなさい。聴く前は、ぶっちゃけV系崩れのなんちゃってお耽美ブラックメタルなんでしょワラとか思ってました。
いやいやいや、これはかっこいいぞ!!!なかなかに質の高い、そしてかっこいいシンフォブラックですよ!!
とにかくヴォーカル含め全楽器のテンションの高さが尋常ではなく、迫りくる脅威に怯え恐慌と戦慄に慄きながら必至に逃げ惑っているかのような、のっぴきならない緊張感が一瞬たりともゆるむことなく畳み掛けてくる様はまさに圧巻。この感覚はほんとAnorexia Nervosaじみている。
なによりシンセの凄まじい緊張感に圧倒されるが、実のところギターもかなりメロディアスであり、ソロやピロピロなども挟みながら心を打つ哀愁メロを奏でまくっているあたりが実に好感触。
終始アグレッシブでありながら緩急が効いており、リズムで聴かせるのもうまいと思う。
ヴォーカルはDani Filthの中音〜高音域に似た喚き(金切り絶叫にあらず)デスヴォイス。Anorexia Nervosaが如くBloodを吐き出さんばかりのハイテンションで叫びに叫んでいる。朗々としたクワイア〜コーラスの使い方も巧い。
いや〜、この手のバンドはえらく久しぶりに聴きましたが、これはグッと心をつかまれますた。
V系を軽んじるのもたいがいにすべきですわほんま。
音質もアマチュアブラックメタルとは思えないレベルであり、かなりのハイクオリティ。
前述のようにCradle of FilthやAnorexia Nervosaが好きならもんどりうって悶絶してしまうこと必至の3曲です。
Svar Fra Hedensk(Myspace):#12〜#13
国産プリミティブ。2曲5分強。
これまたフレンチカルト勢の影響を感じさせるUGカルトプリミティブ。
ドッタンドッタンミドルテンポとドカカカという遅めブラスト、および非人間的バルカン砲ブラストを無機質に繰り返す硬め打ち込みドラムに、Fenrisulfっぽい頽廃的でメロウな陰鬱トレモロをひたすらリフレインする籠りまくりプリミティブギター、うああああうあああああ>orzと生気の感じられない脱力呻き絶叫が絡む。
不穏な雰囲気漂うメランコリーはFenrisulfを想起させ、実際ポンコツミッドテンポパートはデジャヴュを覚えるほど似ている。Fenrisulfよりヒステリックかな。
が、メロディラインは一曲通してほとんど同じで、ドラムとリフのリズムだけで展開を設けているため、2曲5分と楽曲は短いが緩急も激しいが単調な印象を受ける。厄鬼同様のミサンスロピックなストイックさがある。
また籠った音質から滲み出る真性のUG感はまさにLLN系のそれを思わせ、なかなかのカルト臭が漂っている。
ヴォーカルはただひたすらうわああああうわああああと絶叫しており、楽曲のぶっ壊れ感に負けず劣らずイカレている。
というわけで、書いてしまうと至ってシンプルだが、Fenrisulfと似ていると書いたとおり、昨今の国産ブラックの例に漏れずなかなか素晴らしいメロディセンスをしている。
雰囲気も良く、個人的には結構好きなスタイルだ。
LLN系カルトプリミティブを好んで聴かれる方で、あからさまなマシンドラムに抵抗が無い人なら結構楽しめるのではないだろうか。
というわけで、5バンド13曲。
いやー書いた書いた(笑)
正直長文書き過ぎでもう自分でも何が要点なのかよう分からん(笑)
総評としては、国産、アジア産としての贔屓目抜きにしても質の高いUGプリミティブのスプリットだと思うのだが、どうでしょうか。Junoさんだけ浮いてはいるが(笑)
今作一番のお気に入りはやっぱりFenrisulfですね。
何度も言いますが、ほんとにFenrisulfのこの音楽性はごく個人的なブラックメタルの理想形と言っても過言ではないってくらいドツボです。
そしてダークホース一等賞はJunoさんですね。これには度肝抜かれた。是非今後も頑張ってもらいたいものです。
しかし日本もアジアもホントに良いバンドが出てくるようになりましたね。
いや、昔から日本にはSighやらAmdusciousやらHurusomaやら素晴らしいバンドはいましたが、若い世代がたくさん出てくるような活気が出てきたのはとても良いことだと思います。
どのバンドも実に今後が楽しみですし、そして彼らに触発されてますますバンドが増えていったらいいですね。
国産ファンはもちろん買って損はない内容なので、まぁみんなもうとっくに買ってるだろうけど、枚数に限りがあるので未購入で興味のある方はお早めに。
まぁそうそう無くならんだろうけど(笑)