Ride:「Nowhere」

UK産ポストロック/シューゲイザー、1990年1st。時のCreation Recordsよりリリース。今回入手したのは1991年の「Today Forever」EPを追加して2001年に再発されたもの。
シューゲイザーを語る上で外すことのできない重要バンドの最高傑作という位置づけらしく、実際聴いてみるとそのエネルギッシュな内容と美的完成度の高さ、そしてなにより美しくも衝動的で攻撃的なメランコリーにいたく感服した。これほどまでに轟音美メロという形容がしっくりくるバンドもそうないのではないかと感じる。


ギャリギャリに歪められた轟音ギターのノイズが空間を埋め尽くす中、ポップで清浄感あふれる繊細なメロディと、囁くようなヴォーカル/コーラスワークによる瑞々しいハーモニー津波の如く押し寄せる“This is Shoogaze!!”サウンドAlcestをかなりロック寄りにしたような作風で、根本に確かなロックの脈動が感じられる。Slowdiveのような甘く耽美的・幻想的メロディに陶酔するような内容ではなく、若々しいエネルギーに満ちた、抑えきれない衝動を発散しているかのようなスピード感ある楽曲が特徴的。全編これ以上ないってくらい爽やかだが、儚く、美しく、どこか懐かしいメロディに満ちており、癒されると同時に胸が掻きむしられたかのように切なくなる


これでもかと言わんばかりに降り注ぐギターノイズ(これはブラックメタラーでも轟音と認められるレベル)にはどこか透明感があり、哀愁漂う儚く切ないメロディが映える映える。
耳障りなほどに歪められたヒステリックなディストーションギターは案外プリミティバー(=プリミティブ・ブラックメタラー)好みなのではないだろうか。この、ささくれ立ったギャリギャリの轟音を癒し的に使っている感覚はAlcestにかなり近いものを感じる。
その上で綺麗だったりアコースティックだったりさまざまな音色のギターが重ねられており、時にはヴァイオリンやハーモニカなども用いて幾重にも折り重なる激情のメロディが奏でられていく。印象的なメロディを奏でるベースも存在感がある。
力強くタイトなドラムは手数足数が多く、感情的・衝動的なドラミングはどこか焦燥感を煽るような雰囲気


耳をつんざく鋭いノイズに埋め尽くされているとはいえ美麗で繊細な音質。しかし美しく爽やかなメロディと相反して閉塞感を感じるほどに分厚く、この屈折というか矛盾はたいそうな表現を使えば思春期のジレンマとかなんかそんなものを想起させる。
やはりシューゲイズは音響的なセンスの良さが肝だ(まだ数枚しか聴いたことないけどw)。


ヴォーカル/コーラスワークもピカイチで、Alcestで聴かれた物憂げな声で囁くようにたゆたうスタイルで、優しく包み込まれるような感覚。The Beatlesを連想させるような甘くポップなハーモニーに心の底から癒される。


蒼き衝動をギターにぶつけた青春シューゲイズの傑作。まさしく轟音美メロ。
猛烈なまでのノイズに埋め尽くされた青臭く爽やかな音像はどーしようもないほどに切なく、胸がいっぱいになる。
体を包み込むノイズシャワーに酔いしれる感覚が存分に堪能でき、聴いているうちにどんどんヴォリュームのつまみを回してしまう。スピーカーの限界に挑戦するような爆音で聞くと非常に気持ち良くなれる。晴れた日にドライブしながら聞いたりもいいかも。もちろん迷惑なほどの爆音で。
My Bloody ValentineSlowdiveに比べて、このアルバムはブラックメタラーへの間口が広いんじゃないかと思う。#3#8などテンポダウンした曲は思いがけずAlcestそっくりだったりして、AlcestAmesoeursEPの#3なんかが気に入った人なら間違いなくハマれるだろう。
個人的にはAlcestと並んで生涯共にしたいと思うほどに感激した一枚。是非多くのブラックメタラーに聴いていただきたい。素晴らしい。


・MySpace 1:ハーモニカの乗るHere and Nowは必聴。
・MySpace 2:攻撃的シューゲイズSeagullAlcestVapour Trail